京都西陣織 株式会社 もりさん 代表取締役 森 栄彰



―森社長は、どういう経緯で家業に入られたのでしょうか?
大学在学時、みんなと同じように就職活動をして内定をもらった外車ディーラーに卒業後は就職しようと思っていたんですよ。後継ぎについては、長男である兄がいるので、私は普通に就職しようと思っていたんですね。でも、いざそのタイミングになると、先代の父に止められたんです。そして、父の勧めでひな人形作りの修行に福岡県の八女市に行きました。当初は、3年の修行で帰ってくる予定だったのですが、結局4年半いました。そして、その修業期間を終えて京都に帰って来たのと同時に家業に入りました。

―なるほど。九州での修業から戻ってこられて家業に入られていかがでしたか?
兄は、機織り職人として西陣織の「製造」を担当していて、私は、「営業」を担当していました。そして、兄や私の総合プロデューサーのような立場で父がいたんです。私が、九州から帰って来て1年目、「西陣織も売るけど、人形を売っても面白い。」と思ったので、人形作りの修行をしていた師匠のところから人形を仕入れて売ることにしたんです。これに父は、「なんで金襴屋が人形売るんや。」とか「2つのことは一緒に出来ないぞ。」と反対していました。でも、私は売れる自信がありましたし、実際売り始めて1年が経った頃には、びっくりするくらいの売上を上げていたんですよ。売り上げという結果を目の当たりにすると、あれだけ反対していた父も賛同してくれて、父自ら京都市内の人形店を訪問して西陣織の弊社が人形を販売することについて話をして回ってくれました。それ以降、西陣織と人形の販売のどちらも継続して行っていますよ。

―それから、どのような経緯で代表に就任されたのですか?
約10年前に当時の社長だった父から兄が代表を承継したんですよ。それから、2年程経った頃父が逝去したんです。そのタイミングで兄と会社のことについて話していた時、機織り職人であった兄より社外で営業活動をバリバリやっていた私が代表を務めた方がいいんじゃないか言う話になり、その時から私が代表に就任して現在に至ります。

―なるほど。ありがとうございます。御社は西陣織金襴の織元とのことですが、得意とされているのはどのようなことでしょうか?
当然ですが、織物が得意ですよ。なんせ100年前からやっていますから。そして、弊社は、「自社で柄を作ることが出来る」→「自社で織れる」→「さらにそこからもう一工夫できる」と、このようなことを全てワンストップで承れるんですね。通常、柄の作成となると「紋紙屋」に柄の作成をお願いします。そうなると当然時間がかかりますが、弊社は社内でそれが出来ますので時間が大幅に短縮できます。また、昔から人形も作ってきましたから、手先の器用な職人さんが多く在籍してくれているんです。これによって、生地をそこからもう一工夫してがま口の小物入れを作ったり、御朱印帳を作ったりと、西陣織金襴を様々なかたちに変えることができるんですよ。

―京都の染や織りといった呉服関係の業界は分業が慣例なんだと思っていました。僕達、客の立場からするとワンストップで色々お願い出来るのはありがたいです。では、「お客様への貢献」。これについては、どのような思いをお持ちですか?
先にもお話した、ワンストップで出来ること。そうあることが弊社なりのお客様への貢献になるんじゃないかと考えています。呉服の業界は、細かく分業されていますが、分業されているが故、何かとお客様を長期間お待たせするなんていうこともあります。それぞれにその道の職人さんがいるので仕方ないことではありますが、弊社においては少しでもお客様の希望や思いにレスポンス良く対応しようと可能な限りの体制を整えています。

―京都の伝統である染や織りといった呉服の世界で伝統を守りながら時代に合わせていくというのは、とてもデリケートなことのように感じます。スタッフの皆様には日頃どのようなことをお話されていますか?
従業員皆に対しては、「昨日よりも1mmでも1cmでも良いから成長してほしい。」と、いう話はよくしています。これは、私が大学卒業後に修行させてもらった九州の人形作りの師匠に言われたことなんですが、現在でも私自身がとても大切にしている考え方なので従業員の皆にも伝えています。

―なるほど。会社の今後についてはどのようなことをお考えですか?
先代から受け継いでいる仕事や事業との向き合い方で、「仕事をするならニコニコ楽しんでやれ。出来れば人の役に立つことで。」と、いうものがあるんですね。これについては、役員間で共有しているんですが、その考えのもと、従業員の皆で出来ることは従業員に任せて、私たちは私たちにしか出来ないことに取り組んでいます。例えば、保育園の運営事業や15分で結果が分かる新型コロナウイルスの抗原検査キットの販売等です。弊社も企業体ですから利益というものは重要ですが、それ以上に「楽しめるか?」「人の役に立てるか?」ということを重要視しています。また、私は本当に西陣織が好きで西陣織もりさんという会社が好きなんです。こんなに好きな西陣織や弊社をこれからも残していくためにいい意味で事業を多角化していかないといけないと考えています。今までも、これからも西陣織金襴がもっと皆様にとって身近になるように励んでいきます。