株式会社 山武扇舗 専務取締役 山本 武史



―創業100年余り。すごい歴史ですね。山本専務で3代目とのことですが、なぜ家業を継ごうと思われたのですか?
私が家業に入ったのは、29歳の時の事でした。それまでは、どこか他の会社に勤めていた訳でもなく、他の扇子屋さんで修業していた訳でもありません。学生時代からのめり込んでいたバンド活動に没頭していたんです。メジャーデビューこそ叶いませんでしたが、全国を飛び回って活動をしていました。しかし、29歳にもなると、同世代のメンバーの中に結婚して子供が出来たりと生活に大きな変化が出てきたり、年齢的にもバンド活動に対するモチベーションを維持することが難しくなったんです。そして、バンド活動に一旦目処を付けて何をしようか考えていたときに父から「どうすんねん?」と言われたので、軽い気持ちで「やってみるわ。」といって家業に入ることになったんです。当時の私はと言うと、それまではバンド活動とアルバイトしか経験が無く、何をすればいいのか分かりませんでした。父も特に何も言わないので何もつかめないまま4,5年経った時に、このままではいけないということで扇子のネット販売をスタートさせたんです。この事業は始めたことでようやく仕事の全貌を把握することが出来ました。そして、これをキッカケに父に成り代わり私が徐々に前に出るようになり現在に至ります。

―バンドマンが100年以上の歴史ある扇子屋さんのご主人になられたと。すごいコントラストですね。それから約12年。現在、どのような思いを大切にされているのでしょうか?
私の父が「牛のよだれ」なんていう言い方をするのが、「粘り強く地道にやる」という商売の基本の考え方なんです。この考え方は大切にしています。また、一つ一つの仕事を丁寧にやるという父の仕事に取り組む姿をこれからも踏襲していきたいと考えています。

―牛のよだれですか。なるほど。粘り強く地道だからこそ100年以上も続いていらっしゃるんですね。そんな歴史あるお店にいらっしゃる山本専務が今一番力をいれていらっしゃることは何でしょうか?
インターネットを使った発信や物販に力を入れています。通常の業務として、お店にいらっしゃるお客様の接客や扇子の職人さん回り、そして扇子の仕上げ作業があるのですが、それらの仕事の合間にインスタグラムを使った発信を行っています。この活動が功を奏して、最近ではじわじわ問い合わせが増えたりしています。中でも、アメリカ人の方から、「おばあさんが持っている扇子の箱に山武扇舗って書いてある!」というダイレクトメッセージをもらったこともあります。

―それは、今ならではと言うかメチャクチャ面白くて感動的な反応ですね!昨年から続くこのコロナ禍はどんな影響がありましたか?
弊社のお客様は、夏扇子と言われる一般的な扇子をお求めになられる一般のお客様と、舞扇子という舞踊や日舞に使う扇子を求められる舞踊や日舞をされているお客様がいらっしゃいます。コロナ禍の影響で、一般のお客様の中でも国内外の観光客のお客様は激減しましたし、舞踊や日舞の様々な会やお稽古も出来ない状況が長く続きました。これによって、売り上げは激減しました。そんな状態が1年以上続き、ここ2ヶ月ほどでようやく舞踊や日舞の会が再開され、それに伴ってお稽古も再開され出しました。まだまだ観光客に皆さんは戻らないものの、少しづつ上向きつつあると感じています。

―深刻な影響が出ていたんですね。舞扇子を求められるお客様と個人のお客様とでは対する思いに多少の違いがあるかと思いますが、それぞれのお客様に対する思いをお聞かせください。
舞扇子を求めていらっしゃるお客様は当然舞踊や日舞に関係されている訳です。そういうお客様が、「こういう踊りをするから見繕って欲しい。」と言われたら適格にアドバイスできないといけません。そのアドバイスをするためには、舞扇子についての知識だけではなく踊りについての知識も持ち合わせている必要があります。ですから、踊りの曲や流派も勉強して適格なアドバイスをさせて頂けるよう努めています。そして、個人のお客様については、伝統的な扇子ではありますが、ファッションと同じでその時代や時期に合わせた扇子を作って提案することを心掛けています。

―なるほど。伝統を踏襲しつつ現代の感覚を取り入れるというのは、簡単に出来ることではないと思います。高いモチベーションが必要になるかと思うのですが、そのモチベーションの源ってなんですか?
「私がやっているのは100年以上続く家業だという事。そんな家業を自分の代で潰してしまう訳にはいかない。」という思いが根底にあります。この思いがそのままモチベーションに繋がっています。祖父の代から続く伝統的な扇子を如何に現代に合わせていくのか?ということを常に意識して、伝統文化と新しい文化を上手く融合させて店や会社を維持、発展させていかなければいけません。

―新旧の融合と調和。伝統と革新。現代は、このような一種の過渡期なのかもしれません。これからについてはどのようなことをお考えですか?
舞扇子の世界で「山武さんに聞いたら分かるやろ。」「山武さんに任せておいたら間違いない。」そう言われている父のように、私もならないといけないと考えています。その為に、今以上に扇子のことや踊りの勉強に励んでいかないといけません。また、一般のお客様を対象に普通の扇子屋がやらないようなことに積極的に取り組んで、若い世代に扇子と触れ合って貰いたいと考えています。また、日本にいらっしゃった海外旅行者の皆様に対する発信だけではなく、こちらから積極的に海外に向けて発信するような活動もはじめていこうと計画しています。