株式会社 オライ 代表取締役 甲斐 嵩規



―甲斐社長は、どのような経緯で独立されたのでしょうか?芸大在学中に始められたアルバイト先にそのまま就職されたとは伺っているのですが。
飲食の業界に入ったのは、大学時代のアルバイトが最初でした。広島から京都に出てきて一人暮らしを始めて自炊をやりだしたのですが、料理って面白いなと思ったんです。元々、モノづくりと言うかゼロから何かを創り出すということが好きで芸大に入ったので、料理に面白さを感じるのに時間はかかりませんでした。そんな時に、居酒屋のアルバイト求人が目に留まり、居酒屋なら「まかないも食べれて料理の勉強も出来るし最高!」そんな感じで応募しました。それから、時間が流れて卒業制作に取り組む際、建築デザインを専攻していた私は、「祇園エリアでの店舗設計」というテーマで卒業制作に取り組んだんです。そして、その卒業展示をバイト先の社長が見に来てくれたんです。その時、バイト先の社長もお店のスタイルを変えようとされていた時期だったようで、その展示をを見て「うちに来ないか?」と声を掛けてくださったんです。それから約10年、その社長の元で修業期間のような時期を過ごし、それから新店舗の店長を2年勤めたタイミングで、その新店舗を譲ってもらえる話が出たんです。相当悩みましたが譲り受ける決断をしました。それが、今から約5年前です。このように独立して今に至ります。

―なるほど。ていうかお店を譲り受けるって買い取るってことですよね?若くしてすごい決断をされたんですね。独立されてから約5年。現在、経営者として大切にされている思いや考えとはどのようなことでしょうか?
お店を経営する経営者として、お越し頂くお客様にとって「居心地の良い場所づくり」を心掛けています。例えば、お客様に「すいません。」と言って頂かなくてもいいように常に気配りや目配りをして、お客様が何かアクションを起こされる前に感じて気付いてこちらから動くというような事です。

―こちらから何かアクションを起こす前に気付いてもらえるというのは嬉しいですよね。そういうサービスをしてもらうと気持ちよく食事出来ます。でもそれって、簡単なことではないと思うのですが、スタッフの皆様へはどのように伝えていらっしゃるのですか?
お客様に対して「何をすればいいのか?」ということを考えると、結局何をしていいのか分からなくなることが多いと思うんです。ですから、スタッフの皆には「自分がしてもらって嬉しいことをお客様にして欲しい。」と伝えています。また、こちらからのアクションだけではなく、お客様から話しかけて来られた時には、自分の好きな人と話すように、かたぐるしくない程度に丁寧な接客して欲しいとも伝えています。

―あれこれ一挙手一投足を指示されるのではなくて、姿勢や向き合い方を示してもらって後は任せてもらえるとスタッフの皆様も接客をされていて楽しいでしょうし、何よりやりがいがあると思います。お越しになられるお客様に対しては、どのような思いをお持ちですか?
まずはとにかくお越し頂いた皆様には笑顔でお帰り頂きたいと考えています。そして、祇園という場所柄、お越し頂くお客様の価値を上げるようなお店になりたいと考えています。お客様の「祇園で顔のきく店」。そんな店になりたいですね。また、お客様のご要望にはなるべくお応えしたいと考えていますので、可能な限り「No」とは言わないようにしています。

―お客様の価値を上げるような店という存在になるというのは、どの業種業態にも言えることかと思います。次に、独立されてからこの約5年で一番つらかった時期はいつでしたか?
このお店を譲り受けたタイミングです。それまでは、前オーナーのつながりで多くのお客様にお越し頂いていたのですが、そのお客様がだんだんお見えにならなくなったんです。これによって、お客様は半分程度まで減りました。この時、自分の不甲斐なさを感じると同時に、それまで対外的な活動と言いますか、人との出会いや繋がりを作るための活動をしてこなかったことによる、自分の人脈の希薄さを痛感したんです。それからは、経営者の会等、対外的な活動に積極的に参加するようになり、私の経営者としての横の繋がりが徐々に増えていきました。そして、最近その繋がりの中から少しづつお越し頂くお客様は増えてきているように感じています。

―独立早々、お客様が半分になると焦りますよね。僕なら気が狂っていると思います…。甲斐社長のモチベーションの源って何ですか?
やっぱりこの仕事が好きなんですよ。そんな仕事の好きな私がやっているこの店に私の好きなお客様がお越しくださる。これがモチベーションになっているように思います。自分が好きな仕事をしているこの場所に、自分が好きな客様がいらっしゃって、更にそのお客様が新しいお客様を連れてお越しくださいます。好きなお客様の好きな方ですから、当然私とも肌感が合うのでそのお客様も好きになります。そんな皆様でこの空間が満たされる訳ですから当然いい空間になります。そんなところで働けて本当に幸せだと思いますし、ますますこの仕事が好きになっていきます。

―すごくステキな循環じゃないですか!憧れます!最後になりますが、これから先の事についてお聞かせください。
経営者として考えた場合、一昨年から未だ続くこのコロナ禍を当然無視する訳にはいかず、当然実店舗以外の収入源を如何に作るのかということに取り組んでいかないといけないと考えています。その中で、今年中に実現したいのが、オリジナルのお茶や地元広島のショウガを使ったジンジャーエールのネット販売です。他にも、実用性を加味した祇園発の飲食関係者用のウェアブランドの立ち上げも検討しています。しかしながら、私はこの仕事が好きですから現場を離れて経営者としての仕事だけをするということは考えていません。ゆくゆくは、趣味と仕事の境目をなくして、常に素の状態でいれるような環境作りをしたいと考えています。