株式会社 アンビエンテ 所長 田中 克茂



―御社のホームページで田中所長の経歴を拝見すると大学の経営学部を卒業されてから建築の専門学校へ進まれていますが、この決断にはどんなストーリーがあるのでしょうか?
かつて私の両親はアパレルのデザイナーブランドの会社を経営していたんですね。始まりは、街の小さな洋服屋だったのですが、日本経済がバブル真っ只中という追い風もあって、あれよあれよという間に大手百貨店に出店するほどの会社になっていきました。そんな両親を幼い頃から見て育った訳ですから、子供ながらに「将来は、この会社を継ぐんだろうな。」と感じていました。しかし、ある出来事をきっかけに状況が180度変わったんです。その出来事というのは、バブル崩壊と阪神淡路大震災です。それを機に、一気に事業は縮小に追い込まれました。最後は、両親だけで小さなお店1店舗だけを経営していたのですが、それも数年で閉店することになりました。両親の会社がそんな状況の時、私はというと大学生で就職活動の時期を迎えていました。この時の私は、特定の職種や職業に就きたいという思いよりも、ただ漠然と両親のように自分も商売がしたいという思いを強く持っていました。しかし、まだ学生でしたから、何をしようにもノウハウも資金もない訳で、日々どうしようかと悶々としていたときに、建築士で設計事務所を経営されていた師匠ともいえる存在の方と出会ったんです。当時、経営学部だった私が建築設計という仕事と初めて出会った瞬間でした。この師匠との出会いをキッカケに大学卒業後に建築の専門学校に進み、そこから修業期間を経て2010年に独立しました。ちなみに、弊社のアンビエンテという社名は、両親が展開していたブランド名なんですよ。

―社名でご両親の思いを引き継がれているってドラマチックで素敵ですね!独立されてから今年で12年を迎えられる訳ですが、現在経営者として大切にされているのはどのような思いでしょうか?
お仕事の発注側と受注側。仕事をする以上この関係性が必ず発生するのですが、この時に仕事は立場が違えど対等だと考えているんです。お仕事の発注側が絶対的に偉いとは考えていません。しかしながら、発注側の依頼があって初めて受注側が仕事をさせてもらえる訳ですから、「発注側:受注側=51:49」こんなバランスの関係性を保つことが大切だと考えています。また、会社を経営するに当たっては、「自分に嘘はつかない。」「自分が違うと思ったことはしない。」と心に決めています。

―「発注側:受注側=51:49」というのは、僕は経営者ではありませんが分かるような気がします。独立されてからの12年の間で、一番辛かった字はいつでしたか?また、その辛かった時期をどのように乗り越えられたのでしょうか?
独立当初の3年間が一番しんどかったですね。というのも、仕事が全くありませんでしたから。師匠の設計事務所を手伝わせてもらったり、建築の専門学校で講師のアルバイトをしたりして何とか食いつないでいました。そんな当時、私の子供は保育園に通っていたのですが、時間にゆとりがあったので毎朝私が保育園まで送ったり、子供と過ごす時間を多く持つようにしていました。そんな中で、ふとしたキッカケから保護者会の会長に立候補したんです。それから、保育園の園長や先生とも仲良くなるうちに、園の建物の使い勝手などについての色々な不満や相談をされるようになったんです。それに対して、私の出来る範囲で出来ることをしてたある日、園舎の建て替えの設計の話を頂いたんです。それから徐々に保育園をはじめ各方面からご依頼いただけるお仕事が増えてきて今に至ります。

―それで、ホームページにある事例集に一般住宅の他に複数件の保育園が紹介されているんですね。次に、田中所長のお客様に対する思いをお聞かせください。
一般住宅を建てるにしても、保育園の園舎を建てるにしても、ここは京都ですから「景観条例」を守らなくてはいけません。この条例によって、何でも自由に建てて良い訳ではなく、「この地域の屋根は瓦にしなければならない。」や「外壁は漆喰にして板を貼らなければいけない。」というような一定の決まりがあります。しかし、何でも決まりだからという理由だけで条例に従うのではなく、お客様の代わりとなって、京都市と折り合のつく交渉を心掛けています。そして、守るべき条例は守り、可能な限りお客様のご要望を叶えることが設計士としての私の役割であると考えています。

―ありがとうございます。御社には田中所長の他に、3名のスタッフの皆様がいらっしゃるとのことですが、日頃からどのようなことをお伝えされているのでしょうか?
「行政の言うことを何でもそのまま受け入れないで欲しい。自分で行政と交渉することが出来ないお客様に代わって、自分がその役割を代行していることを忘れないで欲しい。」と伝えています。そして、何よりまずお客様の要望を全て叶えることを目指すこと。そして、自分の作風やデザインを前面に押し出すのではなくて、お客様の要望を全部詰め込んだ上で、やっと自分のデザインをスパイスのように入れるように。ということをことあるごとに伝えるようにしています。

―僕も過去に設計士さんに家の設計をお願いしたことがありますが、設計士さんの色をバリバリ出されて「これ誰の家やねん!」と思った経験があります。自分の要望が全て詰め込まれたうえ、スパイスのように設計士さんのデザインが入るというのは素敵ですね!最後になりますが、今後の事についてお聞かせください。
先程からもお話しておりますように、「デザインから入らないお客様の要望が全部叶えられる建物」をもっともっと世の中に増やしていきたいと考えています。その為に、私は現場と言うか設計業務を離れてプロデューサーのような立場で仕事をしたいと考えています。それを成しえるため、私と志を共有できるいくつかの設計事務所を取りまとめ「デザインから入らないお客様の要望を全部叶えられる建物を設計する設計士のグループをつくりたいと考えています。